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2014年7月7日月曜日

ビリギャルじゃなく、ビリボーイの感動ストーリー

こどもの学校の先生が授業中にした「本当にあった話」です。
ドラマになりそう、と思うほど感動する話でした。
今はもう定年を迎えたその先生が、はじめて持った担任のクラスにいたT君が主人公です。

T君が中学校に入ってからというもの、もらってくる通知表はいつもオール1。
みんなはこれを「煙突」と呼んでいた。
T君はいつも授業中、講義を聞かずに、みんなを笑わせたくてギャグを考えていたのですが、
これが全く面白くなく、クラスの全員から白い目で見られていました。
当然彼はいじめの対象となり、からかわれ、頭から水をかけられることもありました。
彼はいじめられないように、朝は真っ直ぐ職員室へと行き、
職員会議が終わったあと先生の影に隠れるようにしてなんとか無事教室に入るのです。
休み時間もいじめられないように、チャイムと同時に職員室に逃げ込んでいました。

T君が3年になったある日、
自分の夢をみんなに発表する、という内容の授業が行われました。
当時の男の子の憧れは野球選手、女の子は保母さん、と決まっていました。
ひとりづつ席を立ち、将来の夢を語っていきます。
次はT君の番です、周囲からは「あいつに夢なんて無いだろ」
「またつまらないギャグでも言うんじゃないの?」とはやし立てる声が聞こえます。
席を立ったT君は、恥ずかしそうにしばらくうつむいた後、こう言いました。

「僕は農業高校にいって、農業をやりたいと思います。」
一瞬室内が静まり返り、どっと笑い声が沸き起こりました。
この時、教室には、彼の決意を知る者はひとりもいませんでした。

その日の夜、担任の電話が鳴りました。T君のお母さんでした。
若い教師は、きっと今日の授業のことで苦情を言われるな、と覚悟して受話器を取りました。
しかし以外にも、聞こえてきたのはお母さんの明るくうれしそうな声でした。

「今日は本当にありがとうございました。授業の話ききました。
 夢についてだったそうですね。
 今までうちの子は目標なんて持ったことがありませんでしたから、びっくりですよ。
 あの子が将来のことを真剣に考えていたなんてねえ。
 みんなに笑われたようですが、誰に笑われようが関係ありません、
 まあ、こんな成績なので、卒業したら、知り合いの中華料理屋へでも
 就職させるつもりでしたけど。
 今は、やれるとこまでやらせてみようと思っています」と言い、
何度も何度もお礼を言って電話をきりました。

このクラスでは、毎日自習ノートを1ページに書いてくる、という宿題が出ていた。
今まで一度も宿題を出したことがなかったT君は、この日を境にノートを提出するように
なっていった。それも毎日3教科で3冊。
英語はABCから、数学は小学校4年生のはじめからやり直しです。
国語は文章の書き取りをしていった。
受験が近くなると、ほとんどの生徒はノートの提出をしなくなりましたが、
T君だけは毎日出し続けました。
(ノートを仕上げるまで夕飯を出さないわよ、とお母さんに言われていたそうです)

いよいよ志望校を決める時がやってきました。
一番近い農業高校は、入試で各教科30点を取れば合格できる高校です。
しかし、小学校からほとんど勉強をしてこなかったT君にとっては、
普通の人が100点を取るのと同じ努力が必要になります。
クラスメイトはT君の頑張る姿を見て、T君に対する態度を徐々に改めていきました。
2月ごろになるとT君はクラスの一員として認められ、
みんなから暖かい言葉をかけられるようになっていきました。

そして運命の受験の朝です。
その朝、担任の先生の下へ電話がかかってきました。
その先生の格言は『朝から電話がかかってくる時はろくなことがない』です。
電話はT君からでした「先生どうしよう!!」彼は泣きそうな声で叫んでいます。
受験会場へと向かう途中、逆方向の電車に乗ってしまったと言うのです。
「しかたがない、こうなったら最後の手段だ。」と担任は言い、
受験する高校へ電話を入れました
「すいません、そちらの学校を受験する予定の生徒なのですが、
 今朝救急車で運ばれたので、テストに遅れますが、よろしくお願いします」
試験会場についたT君は「すいません、乗る電車を間違えてしまいました~」・・・・
それでも遅刻が認められて、遅れたT君は無事に試験を受けることができました。

そして合格発表の日がやってきました。
高校へ発表を見に行ったT君が、いつまでたっても帰ってきません。
予定の時間を3時間も過ぎた頃、不安になった担任が職員室から高校へ
電話をかけてみました。
T君の合否をたずねると、なんと無事合格しているではありませんか。
担任が「合格です」と言うと、職員室にいた全員がどっと歓声をあげました。
それはたった一人の合格を、学校全体が祝福しているようでした。

それからしばらくして、やっとT君が学校へ戻ってきました。
その足取りは重く、うつむいたまま暗い表情をしています。
これは彼のジョークだ、と気付いた担任はわざと「結果はどうだった?」と聞いてみます。
するとT君は、ぱっと表情を一変させて「合格でした!」と叫びました。
職員室にいた全員が、この報告を今始めて知ったかのように、
もう一度、大きな歓声でT君の合格をお祝いしました。
毎日職員室に逃げ込んでいた時に「こんにちは」と挨拶していたT君は
いつの間にか「こんにちはボーイ」というあだ名で、親しみを持って呼ばれていたのでした。

農業高校へと進学したT君は、電車で片道2時間の道のりを、
たった1日休んだだけの、準皆勤賞をもらい、卒業します。
農家の跡取りではないため、農業への道はあきらめることになりましたが、
学校で得た専門的な知識を生かした仕事に就き、
現在も食品会社へ勤めているそうです。
この話はこれでおしまいです。

今の中学校で、オール1で、高校に進学するのは至難の業です。
学習意欲がないのでオール1なのですから、進学できる子はほとんどいないでしょう。
先生は、偏差値の非常に低い子供の多い学校なので、この話をしてくれたようです。
生徒の心に届いているといいのですが。